2025年8月2日(土)に、神戸大学百年記念館にて神戸大学公開シンポジウム「研究ってナニ?~私たちのリアルな挑戦~高校生と大学研究者の場合」が開催されました。
神戸大学計算社会科学研究センター主催、神戸大学工学部/システム情報学部/医学部保健学科/経済学部/みらい開拓人材育成センター/RIEBセミナー共催で開催されたこのシンポジウムでは、兵庫県の高校生に公募を行い、研究報告者およびポスター報告者を募りました。公募により、研究報告者2名、ポスター報告8課題が選ばれました。
このシンポジウムは、研究に興味を持つ高校生と、本学の若手教員を結び、それぞれが自身の研究に関する報告を行うとともに、「自分にとっての研究とは何だろう」という部分を考える機会になればという思い、また、聴講に来る高校生?学部生?院生?高校教員も、高校生および大学教員の研究報告を聞くことで、「やってみたい、やってみよう」というきっかけづくりの機会になればという思いも込めて計画されました。

シンポジウムの開催に先立ち、上東貴志センター長より、開会の挨拶および趣旨説明がありました。挨拶の中では、「計算社会科学」という比較的新しい研究分野の紹介があり、会場の高校生らは真剣に聞き入りました。
第一部では、公募で選ばれた高校生2名と大学教員3名により、研究報告がなされました。
最初の報告は、小林晃大さん(神戸大学附属中等教育学校)による報告で、タイトルは「足底メカノレセプターの刺激を目的とするインソールの開発と効果検証」でした。高齢者の転倒防止ため、足底筋の刺激が有効と考え、インソールを開発し、被験者に一定期間着用してもらった結果に関する報告でした。
第二報告者は、小牧かほりさん(啓明学院高等学校)で、報告タイトルは「ワイソフ(Wythoff)のゲームとD.ホフスタッターのG-数列」でした。ワイソフのゲームという石とりゲームを基にした変形版の「小牧のゲーム」を研究の対象としました。この研究内容は国際学会の査読を通過しており、さらなる研究の発展が期待されるところです。


第一部研究報告の後半は、神戸大学若手教員による報告で、最初の報告は大西鮎美助教(神戸大学大学院工学研究科)による「ウェアラブルコンピューティングの研究事例 ~身近な困りごとや自分の特技を起点とした挑戦?」という報告でした。大西助教が研究を進めるウェアラブルコンピューター(着用出来るコンピュータ)に関する具体例の紹介がありました。唾液を出す装置や、疲れを感知する五感拡張デバイスなど、「コンピュータは着る時代」と話す大西助教に、聴講者は食い入るように聞いていました。
次の報告は、松井暉講師(神戸大学計算社会科学研究センター)による「計算社会科学によるユーザー行動の研究 ?人の行動の隠れたメカニズム解き明かす挑戦?」という報告でした。学部時代は経済学を学び、大学院からコンピュータサイエンスを学んだ松井講師の経歴に、聴講生から多くの質問?コメントが寄せられました。
最後の研究報告は、福重春菜助教(神戸大学大学院保健学研究科)による「より患者に寄り添った看護を実現するための研究 ~ナースコール対応など、看護現場における課題解決への挑戦~」という報告でした。実際に看護師として勤務した時の経験から、膨大なナースコールのデータを分析することで、看護師の配置や入院患者の部屋割りなどを提案するという、現場の看護師?患者に寄り添った研究内容は、勤務経験のない高校生にとってもわかりやすいものでした。



第二部は、公募により採択されたポスターセッション(8課題)です。採択課題は以下のとおり:
課題名 | 所属 | 発表者 |
---|---|---|
分割施肥と一括施肥がもたらすコムギ収量の違い | 滝川第二高等学校 | 大橋智弓さん?森大輝さん?野沢唯人さん?小野桃佳さん?栗田汐梨さん?森川遼さん |
翼構造による効率的な航空機の設計 | 兵庫県立宝塚北高等学校 | 木谷隆宏さん?阿佐有真さん?木下誠己さん?松田太さん |
臓器移植の理解促進に向けた 教育的アプローチの検討 ―中等教育段階における意識調査を踏まえて | 神戸大学附属中等教育学校 | 佐藤沙紀さん |
愛玩動物のストレス感知とマッサージによる緩和 | 兵庫県立宝塚北高等学校 | 妹尾梓音さん |
同定を通じた探究活動に役立つ地域限定貝類標本の作製 | 滝川第二高等学校 | 田中柚葉さん?大森桃華さん?羽鳥安珠さん?田中悠紀さん?安藤綾さん?木皿虎優介さん |
メイラード反応を確認する教材としてのピータンの作り方レシピ | 滝川第二高等学校 | 長井南奈さん?野々村娃俐さん?冨士木菜々花さん?藤木美羽さん? 岩井大輝さん?岩佐虎明さん |
アリは行列を作るだけなのか | 滝川第二高等学校 | 松田珠侑さん |
音の種類による防音効果の変化 | 西宮市立西宮高等学校 | 山中秀真さん?青柳陽大さん?松本武留さん |
【ポスターセッションの様子】








シンポジウム第二部のポスターセッション会場では、8つの課題のポスターが並びました。すべてのグループで高校生は堂々と、研究に関する結果報告や、質疑に対応しました。時には解答を準備していなかった質問に困惑する場面も見受けられましたが、グループ内でフォローするなど、高校での校内発表ではできない経験ができました。


第三部では、第一部の報告者に加え、上東センター長?松本さんをモデレータ?司会に迎え、パネルディスカッションを行いました。第一部の研究報告では、聴講者の皆さんからオンライン質問フォームを通して多くの質問?コメントをいただいておりました。最初は、第一部の小林さん、小牧さんの報告に対する質問?コメントから開始されました。小林さんの「高齢者転倒予防のためのインソール開発」については、最初は、もともとプレイをしていたバスケットボールシューズの改良の観点から、ヒントを得たというエピソードの紹介もありました。また小牧さんの報告については、国際学会の査読を通過しているという点について、驚きのコメントが多く寄せられていました。
大学教員に対しては、大西助教に対しては、「どれくらいの頻度でウェアラブルコンピュータを開発しているのか」「部品の部分から開発なのか、既存のものを利用するのか」というような具体的な質問が多く寄せられました。松井講師に対しては、「大学に行く意味は何か?」「大学でしか学べないコンピューティングの技術は何か?」というような高校生からの率直な質問が多く、真剣に正直に答える松井講師の回答に対して、大きな笑いが会場を包みました。福重助教に対しては「ナースコールを一日に数百回ならす人にペナルティは課せないのですか?」「ナースコールのボタン1つではなく、余裕のある患者は、パッド等で用件のカテゴリを選択して発信する、などどうでしょうか。」というような、福重助教の看護師としての実務経験に関する質問や、研究内容に対するコメント?提案なども多く含まれ、口頭質問?コメントを含めると50以上の投稿がありました。


近江戸伸子教授(神戸大学大学教育推進機構みらい
開拓人材育成センター長)
パネルディスカッション終了後は、上東センター長より、研究報告?ポスター報告をしてくださった高校生の皆様へ、報告証明書の授与がありました。ステージに立つ高校生の皆さんは堂々とされ、研究に対するモチベーションが上がったように見受けられました。
最後に、近江戸伸子みらい開拓人材育成センター長から閉会の挨拶があり、神戸大学が高大連携プログラムとして推し進めている、ROOTプログラムのご案内がありました。このプログラムは、国際的に活躍する科学者?技術者を育てる高校生を対象とした教育プログラムで、公募で採択された場合、大学の研究者等とマッチングを行い、その指導のもとで、研究に挑戦する科学力を高めるため様々な方法で研究に取り組めます。
本シンポジウムでは、高校生がお互いの研究に触れ知見を広げ、また若手研究者のこれまでの経験や神戸大学の取組について知ることができ、自分の将来について考える良いきっかけとなったとよいフィードバックをいただき、成功裏に終了しました。

(計算社会科学研究センター)