神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師は、沖縄県の沖縄本島で2種の未知の菌従属栄養植物を発見し、それぞれ、「ヤンバルヤツシロラン」、「ツツザキヤツシロラン」と命名しました。
本研究成果は、4月7日に、国際誌「Phytotaxa」にオンライン掲載されました。
研究の背景
植物を定義づける重要な形質として「葉緑素をもち、光合成を行う」ことが挙げられます。しかし、植物の中には光合成をやめて、キノコやカビの菌糸を根に取り込み、それを消化して生育するものが存在します。このような植物は、菌従属栄養植物※1と呼ばれます。菌従属栄養植物は光合成を行わないため、花期と果実期のわずかな期間しか地上に姿を現しません。また花期が短く、サイズも小さいものが多いため、見つけることが非常に困難です。これらの要因から、植物の戸籍調べが世界でも最も進んでいる日本でさえ、菌従属栄養植物についての正確な分布情報は解明されていません。そこで末次健司特命講師は、日本国内における菌従属栄養植物の分布の調査と、その分類体系の整理に取り組んでいます。
研究の内容
その一環として、末次氏は、2012年3月に沖縄県の沖縄本島において、在野の植物研究家 (仲間正和氏、渡邊たづ子氏、渡邊宏満氏) らと共同調査を行い、2種の未知の菌従属栄養植物を発見しました。末次氏は、その後も、上述の仲間氏、渡邊たづ子氏、渡邊宏満氏ならびに同じく在野の植物研究家の当真嗣尊氏、沖縄美ら島財団研究員の阿部篤志氏、沖縄大学金博宝188,金博宝188体育部教授の盛口満氏の協力のもと調査を続けました。その結果、これらの植物は、両者とも、ラン科オニノヤガラ属のハルザキヤツシロランに近縁であるが、「唇弁」と呼ばれる花びらの構造や、「ずい柱」と呼ばれるラン科に特有な雄しべと雌しべが合着している器官の構造が異なることから、ハルザキヤツシロランと区別できることがわかりました。
そこでこれら2種を新種として記載し、それぞれ「ヤンバルヤツシロラン Gastrodia nipponicoides」、「ツツザキヤツシロランGastrodia okinawanesis」と命名しました。ヤンバルヤツシロランは、植物体の高さは3~6cmで、長さ15mmほどの黒褐色の花を1~4個ほどつけます (図1)。これに対してツツザキヤツシロランは、植物体の高さは10~17cmで、長さ20mmほどの淡褐色の花を1~4個ほどつけます (図2)。
発見の意義
菌従属栄養植物は、森の生態系に取り入り、寄生する存在です。このため生態系に余裕があり、資源の余剰分を菌従属栄養植物が使ってしまっても問題のない安定した森林でなければ、菌従属栄養植物が生育することはできません。つまり菌従属栄養植物が存在する事実は、肉眼では見えない菌糸のネットワークを含めた豊かな地下生態系の広がりを示しています。やんばるの森は、昨年「やんばる国立公園」に指定されたばかりですが、豊かな森とそこに棲む菌類に支えられた「ヤンバルヤツシロラン」と「ツツザキヤツシロラン」の発見は、やんばるの森の重要性を改めて示すものです。
用語解説
- ※1: 菌従属栄養植物
- 光合成能力を失い、菌根菌や腐朽菌から養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、コルシア科、タヌキノショクダイ科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約50種が報告されている。