創部64年の長い歴史を持つ応援団総部?応援団において、女子が団長を通年で務めたのは、まだ2人しかいないという。第64代団長の河村愛菜さん(文学部4年)は2024年1月から、重責を担い、団を率いて応援活動を重ねてきた。12月の引退ステージとなる「翔鷹祭(しょうようさい)」に向けて、静かに闘志を燃やす。
スーツ姿で応援団員率いる
河村さんが率いるのは、総勢9人の応援団。吹奏楽部と合わせた応援団総部は140人程度のメンバーだ。応援団はリーダーと女子チアリーダーの2グループから構成され、河村さんはチアリーダーから選出された。通常リーダーから選ばれる応援団長は詰め襟の学生服(学ラン)姿だが、河村さんは学ランではなくスーツに身をくるみ、エールを送る。
応援団の1年は、春と秋の2度、繁忙期を迎える。硬式野球、アメリカンフットボール、ラクロスなど多くの体育会がリーグ戦を迎える3、4、9月は、多い時で1カ月のうち15日間、球場、競技場まで出向き、母校チームの応援に当たる。団長は、試合の前後にエール交換し、選手?応援席のモチベーションを高める。それにとどまらず、河村さんは、エール交換を終えると団長の時のスーツ姿から一転、試合中はチアのユニフォームに着替えて声援を送り選手を鼓舞する応援の二刀流だ。
応援団長と言えば、いかつい姿をイメージするが、身長162センチの華奢な河村さんは、そのギャップがあまりに大きい。普段はキャンパスのどこにでもいる大学生だが、いったんスーツに袖を通すと、威厳のある太い声と堂々とした振り付けで、風格もたっぷりの応援団長に変身する。大学行事の入学式、卒業式、10月末のホームカミングデイの式典などにも登壇し、新入生、卒業生、OB?OGにエールを送ってきた。
リーダー役には消極的、なのに白羽の矢
河村さんが入学した2021年当時はコロナ禍の真っただ中。通学が解禁となった1年生の秋に、仲の良かった一つ上の先輩から勧誘され、応援団の門を叩いた。3年生になった夏、応援団長に誰を推薦するか同級生と相談した際に、一番早く応援団に入った河村さんに白羽の矢が立った。
実は、中学校時代の吹奏楽部でリーダーを務めた際に、練習をしない部員をうまく指導できなかったことがトラウマとなり、河村さんはそれ以降、リーダー的な立場を自ら避けていたという。当時を思い出しながら、「同期の留学なども影響していたと思いますが、私が応援への思いが一番強かったのかな」と、応援で喉をつぶしたハスキーな声で語った。
応援団一時は休部、復活に思う
今は積極的な活動を展開している応援団も、2015年から3年程度、団員がゼロとなり、休部を余儀なくされている。当時の第59代団長の宮脇健也さんが1人で一念発起し、応援団を復活した経緯がある。応援団の休部?復活の歴史に関して、河村さんは「逆にいいチャンスだったと思います。最近の応援団はどの大学も、変えなければならない価値観と変えてはならない魂の部分で試行錯誤しています。神戸大学は、一度休部したことで新たに作り上げるものが多かったので、その点では良かったのかもしれません。いつまでも引き継いでいきたいものと、変わっていくものをうまく両立させていかなければなりません」と前向きだ。
団長に就任して、まもなく1年を迎える。これまでの活動の中で大変だったことは、就任直後、どう応援していくのか方針決定に関し悩みに悩んだ。また、応援団が一時休部して先輩から引き継がれるものが途絶えたことで、幹部が自分たちで決めることも多くなったという。「応援のスタイルもルーティンでやっていては駄目で、やっている事の一つ一つに意味付けしなければなりません。野球であれば、点を取れそうな山場の時やピンチの時など、それぞれの状況に合わせた応援ができるように」とストイックな一面ものぞかせた。
「これまでは性格上、あまり人に相談しなかったけれど、団長の立場になって、先輩とか同級生とか含め、多くの人に相談するようになりました。自分は背中を見せて引っ張るタイプではありませんが、自分から動き出せば、周りの皆も変わってくれます」と、10カ月間を総括している。
芸術学専修、ミュージカルにも夢中
生まれも育ちも大阪府の生粋の関西人。自分の性格を「あっさりしている」と分析するが、半面で負けず嫌いなところもあり、物事に熱中するとのめり込む。3歳から始めたクラシックバレエは、小?中?高校と続け、現在も趣味として楽しむ。中学校から始めたフルートは現在も高校から通う箕面市青少年吹奏楽団の一員だ。
文学部では芸術学専修で、大好きなミュージカルをひたすらに研究している。プライベートの趣味も、ミュージカル鑑賞。「オペラ座の怪人」が大のお気に入りで、原作の小説と比べ、どの箇所がミュージカルになっているのかを比較して楽しむ。中でも、どの台詞が歌になっているのかを入念に調べ、どういう効果を生み出しているのか分析に余念がない。卒論執筆に向けて、これから学業の山場を迎える。
12月に引退ステージ迫る
12月21日には、神戸市長田区の文化センターで「翔鷹祭」を主催し、河村さんら第64代幹部が引退ステージを迎える。これまで応援してきた体育会メンバー、他大学の応援団員、OB?OGの前で感謝のエールを披露、有終の美を迎える。
応援団は来年、65周年の節目を迎える。今年12月にバトンをわたす後進には、「考えてみれば、1年間は本当に長いので、ずっと気を張っていたら大変。しっかりやることも大事だけれど、自分たちがもっと楽しむ気持ちを持ってほしい。偉そうなことと言っていますが、実は私も先輩団長から言われたことなのです」と温かいエールを送った。
略歴
かわむら?まなな 2002年、大阪府池田市出身。茨木高校卒業後、2021年、神戸大学文学部入学、1年生の秋から応援団総部?応援団に入部。趣味は多彩で、クラシックバレエやフルート演奏、ミュージカル鑑賞も楽しむ。大学卒業後は演劇のプロモーションに携わる仕事に就く。